思考が、止まらない

夜、布団に入って目を閉じる。今日の会議の返事。明日の予定。さっき流し見たニュース。頭の中の声が、止まらない。

瞑想アプリを入れてみた。「呼吸に意識を向けましょう」。三十秒後には、もう別のことを考えている。

連載の第五回で語られていたことがある。瞑想がどういう状態か、そもそも分からない人がほとんどだ、と。思考の外側に出た経験が一度もなければ、「思考を手放す」という指示は、地図のない場所への道案内と同じだ。

ハペという言葉に辿り着いた人の多くは、たぶんこの「止まらない頭」のどこかで検索している。だからこの記事は、用語の説明だけで終わらせない。ハペが何で、何のためにあって、受ける前に何を知っておくべきか——申込ボタンの手前で読む地図として書く。

ハペとは

ハペ(Hapé/Rapé)とは、アマゾン先住民が伝統の中で用いてきた嗅ぎ薬だ。神聖タバコ(Nicotiana rustica)と、薬草や聖木の灰をブレンドした細かい粉で、鼻から受ける。日本では「ラペ」とも表記されるが、同じものを指す——ポルトガル語の Rapé の読みの揺れだ。

火を点けて吸う喫煙ではない。煙も出ない。部族ごとに配合のレシピが受け継がれ、祈りと集中の場を整える道具として、儀式の中で使われてきた。

俺のライトワークセンターでは、メディスンホイールという旅の中で、サナンガと対になる「感覚の入口」としてハペを位置づけている。その話は後半で。

タバコと何が違うのか——先に、正直な話をする

原料に神聖タバコが入っている。つまり、ニコチンを含む。依存性がある。

ここを曖昧にしたまま「神聖な嗅ぎ薬です」とだけ語るのは、フェアじゃない。連載の第十一回は、ここにこう釘を刺している。

瞑想をちゃんとしっかりやって、祈って、ハペの精霊と繋がってから、シャーマンが吹く、っていう儀式としてやると、やっぱ全然違うわけね。特にニコチンが入ってるから、依存性もあるんで。海外では、シャーマンがチェーンスモーカーのようにやっとるんや。それは、日本人の姿ではないなという。

同じ粉でも、嗜好品として日常的に摂るのと、祈りの場で儀式として受けるのは、別の行為だ。海外には、形だけ儀式をなぞって実際は依存的に使っている例もある——その現実を、提供する側が自分から語るかどうか。場を選ぶときの、ひとつの基準になると俺は思っている。

何のための道具か

では、儀式として受けるハペは、何をするのか。シャーマンの言葉をそのまま置く。

ハペは、思考体の世界から除去する。マインドを払拭して、瞑想状態に入って、テレパシーが効いてるような、そういう状態に、ハペはもう一瞬で行ってくれる。

思考体——頭の中で回り続ける、あの声の層のことだ。冒頭の「止まらない頭」そのもの。

俺の言葉で訳すなら、一行になる。祈りで、思考が一瞬で外れる。ハペは、その扉。

瞑想が分からないのは、才能の問題ではなくて、この層の外側に出た経験がないからだ。鼻の奥に強い刺激が来て、涙が出る人もいる。そして思考のざわめきが、ふっと静かになる——そういう体験が、シャーマニズムの伝統と体験者の中で重ねられてきた。

ただし、これも約束ではない。感じ方には個人差があるし、その日の状態にもよる。効果を保証する道具ではなく、祈りに集中するための場を整える道具——この順番を、間違えたくない。

物質は半分。祈りが、もう半分

さっきの引用に、もう一度戻ってほしい。「儀式としてやると、全然違う」。

瞑想して、祈って、ハペの精霊と繋がってから、シャーマンが吹く。この前段があるかないかで、同じ粉が別のものになる。物質だけでは半分。祈りと儀式が乗って、はじめて全体になる。

これはハペに限らず、メディスンホイール全体を貫く設計思想だ。だから俺たちは、ハペを単体の「商品」として出さない。事前の対話で意図と状態を聞いて、場を作って、祈りから始める。

ハペの中で、言葉が降りる

一次体験をひとつ。

連載の第九回は、少し変わった成り立ちをしている。シャーマンがハペの最中に「打ち出し方が降りた」と言って、そのまま3分52秒、一気に語った音源から始まっているのだ。テーマはゲームのアバターと肉体の正体——内容は本編を読んでほしいが、構造が面白い。

ハペの中で降ろされたその言葉を、そのときイボガの実践のただ中にいた俺が受け取って、記事にした。メディスン越しの伝言。あの回の解説は、そういう記録として書いた。

ハペが「テレパシーが効いてるような状態」へ行く道具だという言葉の意味を、俺は受信側で体験したことになる。信じてくださいとは言わない。連載を読んで、確かめてほしい。

メディスンホイールでの位置

俺のライトワークセンターのメディスンホイールでは、ハペは五つの車輪の二番目にいる。

サナンガ(点眼)と対になって、感覚の入口を浄める役割。連載をずっと読んでいる人にはおなじみの並びだ——サナンガとハペで入口を浄め、カンボで体を深く洗い、シリアンルーで固有のリズムに還り、イボガで最深部へ。

ひとつ大事なことがある。この前半の三つ——サナンガ、ハペ、シリアンルー——は、厳密な一本道ではない。日々の実践として、重ねて進めていい。 丁寧にやるなら、サナンガから。ハペは21日間のプログラム(マイクロドージング)の単元としても組める。

旅の全体図は メディスンホイール のページにタイムラインとして描いたので、自分がどこから入るのかを眺めてみてほしい。

受ける前に、知っておいてほしいこと

  • 自分で入手して、自分で使うことは、やめてほしい。 ニコチンを含む伝統植物のブレンドであり、配合も状態も出所もばらばらのものが流通している。儀式の文脈と安全確認のない自己使用は、ハペが本来置かれてきた場所から一番遠い行為だ
  • 体調、服薬、ニコチンへの感受性は、事前の対話で必ず共有してほしい。実施可否は、事前の安全確認を前提にする
  • 心身の状態によっては、お受けしないことがある。それは拒絶ではなく、この実践の安全設計の一部だ
  • そして——怖さが残っているなら、受けない自由がある。連載を読むだけで帰っていい。判断は、いつでもあなたの側にある

よくある質問

ラペとハペは同じもの?
同じ。Rapé の読み方の揺れで、日本ではどちらの表記も流通している。このサイトでは「ハペ」で統一している。

タバコを吸ったことがなくても受けられる?
事前の対話で体質と状態を聞いてから、個別に判断する。ニコチンを含む以上、誰にでも一律に勧めるものではない。

痛い?
鼻の奥に強い刺激が来る。涙が出る人もいる。サナンガ(点眼)の灼熱感とは別の種類の刺激で、数分で落ち着いていくと語られることが多いが、感じ方には個人差がある。

次に進みたい人へ

最後に、冒頭の夜に戻る。布団の中の、あの止まらない声——あの外側は、ある。そこに一度でも出たことがあるかないかで、瞑想という言葉の意味は、まったく別のものになる。

もっと深く受け取りたい人は、メディスンホイール を読んでください。申込を急がせるためではなく、意図、実施可否、安全確認の流れを知るためのページです。


※この記事はシャーマニズムの伝統的実践と個人の体験を扱う読み物であり、医療行為ではありません。診断・治療・処方は行いません。既往症のある方、服薬中の方、心身に不安がある方は、必ず医師など専門家に相談してください。